「きつねのはなし」 by 森見登美彦

表題作「きつねのはなし」「果実の中の龍」「魔」「水神」の4作品を収めた短編集。
これまで読んできた、「太陽の塔」「四畳半神話体系」「夜は短し歩けよ乙女」などの作品も大好きですが、この作品はこれらとはがらりと作風が異なります。
これまで読んだものは大学を基軸としたいわゆるドタバタなコメディ的な要素が強かったですが、こちらはもっとシリアスタッチで静的な要素が強くなっています。どちらも同様に幻想的な世界を描いてるにしても、躁な幻想と鬱な幻想の違いがあります。

四つの短編はそれぞれ独立して成り立つものですが、お互いに共通の人物、店、小道具、獣などが登場し、微妙に関連づけられています。
この辺りは森見さんの得意技ですね。

「きつねのはなし」
一乗寺の芳蓮堂という古道具屋でアルバイトをしていた主人公の話。
単なる骨董品収集の話から始まり平和に過ごしていたのだが、常連の一人である「天城さん」という不思議で不気味な男性と絡むことから、店の主人の「ナツメさん」に起こってきた「狐面」にまつわる不吉な出来事が明らかになっていき、主人公もその関係に巻き込まれ、その恋人である「奈緒子」までも巻き込まれてしまう。
不吉な出来事の不気味さはこの作品特有の作風によって強調されていて、かなりドキドキしながら読み進む事になります。
さらに、種明かし等はいっさい無いという厳しさ。
なんだか映像化したら美しくなるような、そんな作品。

吉田神社の節分が出てきますが、なんだか知ってるものとは違う不気味な登場でした(笑)

「果実の中の龍」
語り手(私)と「先輩」、先輩の恋人「瑞穂さん」が登場する。先輩の住んでいる一乗寺のアパートが中心となって進む。
主に「先輩」の口から話される自身や家族の話が中心になって進んで行く。その先輩の話というのがとんでもなく奥深く興味深いため、「私」も相当惹き込まれていたのだが、やがてそのタネが明かされていく。
街の持つ幻想的なものではなく、人の持つ幻想的な面が描かれている。

「魔」
家庭教師に行っていた大学生がその家庭教師先の近所に棲みついていた「魔」の起こす事件に巻き込まれる話。あの辺りって細かい路地も多く、実際に「魔」が棲みついていてもおかしく無い感じですね。

「水神」
琵琶湖疎水を作った頃から続くもっとも壮大な話。鹿ヶ谷の辺りもああいう幻想的な豪邸がありそうなところでこのような話が普通に起こってそうです(笑)ポンプ技師として活躍していた主人公のおじいさんのおじいいさん(高祖父)は疎水工事の際に何らかのものを発見したらしい。それに繋がっているであろうさまざまな怪奇現象。。。水にまつわる幻想的な世界が続き、人魚伝説までもが関わっているらしい。主人公の祖父が亡くなることで謎の歴史が一気にうごめく辺りが描写されます。

実はいずれの小説でも何らかの解決はあるけど、タネアカシは一切無く、読者はスペキュレートするのみ。いろいろな妄想がかき立てられこれはこれで楽しめます。


2 Responses to “「きつねのはなし」 by 森見登美彦”

  1. [...] 小説の完成を目指し、木造アパートに籠り、文章ばかり書き続けていた学生の末路。「きつねのはなし」の「果実の中の龍」に出てくる「先輩」にも通ずるものがあるが、こちらではもっ [...]

  2. [...]  さて、「有頂天家族」です。以前には「きつねのはなし」もありましたが、これはたぬきのはなし(笑)たぬきだけでなく人と天狗も出てきます。  舞台は例のごとく京都。  いわ [...]

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