「新釈 走れメロス 他四篇」 by 森見登美彦

文学史上に燦然と輝く名作群を森見登美彦の「新釈」により京都を舞台に生まれ変わる!ということで「山月記(中島敦)」「藪の中(芥川龍之介)」「走れメロス(太宰治)」「桜の森の満開の下(坂口安吾)」「百物語(森鴎外)」の 五篇の作品が収められています。パロディなんですが、すべてが京大生の、特に青春をこじらせた学生の話になっています。
出てくる学生が妙にリアリティがあるので(笑)、名作群の登場人物の実写化してるような様相を示してるとも言えるかも知れません。

「山月記」
森見さんによると、原作の「虎になった李徴の悲痛な独白の力強さ。」に惹かれたとあります。

「一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生」斎藤秀太郎の物語。大長編小説の完成を目指し、木造アパートに籠り、文章ばかり書き続けていた学生の末路。「きつねのはなし」の「果実の中の龍」に出てくる「先輩」にも通ずるものがあるが、こちらではもっと豪の者系な人物。どちらもティピカルですが(笑)、こちらの人の場合は山月記的な結果となってます。
その独白の異様な力にはなるほどと思わされます。

「藪の中」
森見さんによると、原作の「木に縛りつけられて一部始終を見ているほかない夫の苦しさ」に惹かれたとあります。

四畳半神話体系」にも出てきていた映画サークル「みそぎ」を舞台にしている模様。
学祭で上映されたとある映画にまつわる話。
かつて恋人同士だったとある男女が哲学の道付近のビルで会っているうちによりを戻していくというストーリーです。
しかし監督の鵜山と主演女優の長谷川は現在交際中で、共演の男性は実は長谷川の本当の元彼である渡邊であった。ストーリーを書いて両者を出演させたのはもちろん監督の鵜山。
しかもエンディングには二人の長く強烈な接吻シーンが続くという。。。
「カメラのこちら側」で「木に縛りつけられて一部始終を見ているほかない」かのごとく成り行きを見守るこの倒錯っぷりはいかに?!
役者、監督、友人たちなどの視点で起こってきたことや感想が語られる。
どろどろとした話になるのではなく、それぞれがそれぞれの独特にこじれた視点によって語っているのが面白い。

「走れメロス」
森見さんによると、原作の「作者自身が書いていて楽しくてしょうがないといった印象の、次へ次へと飛びついていくような文章」に惹かれたとあります。

四畳半神話体系」でおなじみの図書館警察長官と「夜は短し歩けよ乙女」でおなじみの詭弁論部、そしておそらくは「夜は短し歩けよ乙女」と同じ年のNF。
これらが絡み合った場所が舞台です。

詭弁論部の芽野史郎は講義を受けるため大学へ向かったが、大学はNFの真っ最中であった。しょうがなく部室へ向かうと、なんと部室は図書館警察長官の命により奪われ、廃部の危機にあるとか。
図書館警察長官のもとへ怒鳴り込んだ芽野に長官は部室維持の条件を提案する。「グラウンドに設営してあるステージに上りたまえ。そうして、楽団が甘く奏でる『美しく青きドナウ』に合わせて桃色ブリーフ一丁で踊り、今宵のフィナーレを飾るのだ」
芽野は”姉の結婚式に出るため、一日の猶予をくれ”と詭弁を弄す。そして人質として「詭弁論部に芽野と芹名あり」と豪語している友人芹名を人質として差し出す。
そうしておいて芽野は四条通から嵐山まで京都の街を全力で逃げまとう。
しかも芹名が言うには「芽野には姉がいない」とのこと!
「なんでやねん!」と思うあなたは等し並みの友情に毒されています(笑)
そう!詭弁論部的友情とはそんなクッキーを焼くような型にはめられたものではないのだ!
桃色ブリーフを穿いた二人が手加減して殴りあう姿に感動する作品。
すべてのドタバタ感が原作の高揚感を醸し出しています。

「桜の森の満開の下」
森見さんによると、原作の「斬り殺された妻たちの死体のかたわらに立っている女の姿」に惹かれたとあります。

「哲学の道」の満開の桜から始まる不思議な物語。
男は上の「山月記」の斎藤に憧れて小説を書いたりしてすごしていたが、「哲学の道」の満開の桜の下で出会ったミステリアスな女によって運命が急激に変わっていく。
いわゆるサクセスストーリーなのだが、男にとってはそうではなったらしい。
ちょっぴりビターなテイストの哀歌。
普通のサクセスに背を向けたがるある意味ティピカルな人物でもあるかも知れませんが(笑)

「百物語」
森見さんによると、原作の「賑やかな座敷に孤独に座り込んで目を血走らせている男の姿」に惹かれたとあります。

この主人公は「森見」という名を持つ。
ご本人の話か?!

ストーリーは学生の劇団による百物語に関するもの。

「私はつねに、何事かに「参加していない」と感じていた。」という主人公とどことなく共通項を持つ謎の多い劇団の代表である企画者。

その両者が遭遇したのかもしれないし、単なる勘違いかも知れないしと謎の多いまま謎解きもされることなく終了する不思議な話。
ある意味完全なミステリー。

実はこの作品、この短編集に収められたいろんな人たちが登場する。グランドフィナーレのようでもある。さまざまな絡み合いの妙を見せる森見さんの得意技でもあり、面白い。

どれも面白い作品でした。
五篇の中で原作を知ってるのが山月記、藪の中、走れメロスだけでしたので、後の二つも読んでみようかと思いました。


4 Responses to “「新釈 走れメロス 他四篇」 by 森見登美彦”

  1. [...] ブリーフが桃色なら新釈 走れメロスの実写版にもなり得ますね(笑) Check 【関連記事】 [...]

  2. [...] 天狗も、「新釈 走れメロス」の「山月記」に出てくるような無愛想なものではなく、愛嬌あふれる天狗です。 [...]

  3. [...] 森見さんの「新釈 走れメロス 他四篇」の中の「走れメロス」では、桃色ブリーフを履いて踊ることが罰ゲームとなっていて人生最大の恥辱のように書かれていましたが、敢えて自らす [...]

  4. [...] 2011年12月までの記事の累計ランキング30位~1位 そして12月まで!! 一気に1位まで行きます!! 30位:「新釈 走れメロス 他四篇」 by 森見登美彦 [...]

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